【書評】学力の経済学(中室牧子)

≪内容(Amazon より)≫

TBS系列「林先生が驚く 初耳学」(2016/9/25,10/9,11/6放送)で「日本国民全員が一冊持つべき」と紹介された話題の一冊! 「思ったよりカンタンだった! 」「わかりやすくてスラスラ読めた! 」など反響続々! 教育書として異例の30万部突破!

「ゲームは子どもに悪影響?」「子どもはほめて育てるべき?」
「勉強させるためにご褒美で釣るのっていけない?」個人の経験で語られてきた教育に、科学的根拠が決着をつける!

「データ」に基づき教育を経済学的な手法で分析する教育経済学は、「成功する教育・子育て」についてさまざまな貴重な知見を積み上げてきた。そしてその知見は、「教育評論家」や「子育てに成功した親」が個人の経験から述べる主観的な意見よりも、
よっぽど価値がある―むしろ、「知っておかないともったいないこと」ですらあるだろう。本書は、「ゲームが子どもに与える影響」から「少人数学級の効果」まで、今まで「思い込み」で語られてきた教育の効果を、科学的根拠から解き明かした画期的な一冊である。

【著者紹介(Amazon より)】

中室 牧子
1998年慶應義塾大学卒業。米ニューヨーク市のコロンビア大学で博士号を取得(Ph.D)。日本銀行や世界銀行での実務経験を経て2013年から慶應義塾大学総合政策学部准教授に就任し、現在に至る。専門は教育を経済学的な手法で分析する「教育経済学」。

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≪藤井の評価≫

★★★★★★★★☆☆(8/10)

 

【評価の理由】

≪良い点≫

(1) 今まで「○○は良い」「□□は悪い」とされてきたことを

  「本当に?」という視点から検証している。

  「常識を疑う」という姿勢が良い。

(2) 「教育」について「個人の経験や感情」ではなく

  「データ」から分析しているため、説得力がある。

(3) 教育に関する様々な問題
  (収入格差・ご褒美・テレビゲーム等)を取り上げている。

(4) 専門的な内容が多い「論文」を読みやすい形にしている。

(5) 「日本の教育に求められるものは何か?」がある程度
    具体的に書かれている。
 
≪注意点≫

(1) 著者の主張が「どのような教育現場でも当てはまる

普遍的なもの」かどうかというものではない。

(2) 教育とは「個々による」というものも多いため
あくまで「参考程度」という視点で読むとよい。

(3) データはアメリカのものがほとんど。
(そのことに関しては著者も認めている)

(4) 「それじゃあ、明日からどうするべきか?」といった各家庭が

すぐにでも実践できる具体的な教育方法などは

あまり書かれていない。

 

【評価の詳細】

≪良い点≫

「教育」を語る際は、どうしても「自分の経験」「自分の感情」を

持ち出してしまうことが多く、あまり科学的な根拠がない

偏った意見になりがちなのですが、この本では

しっかしした「データ(科学的根拠)」を基に、

教育が語られていたので非常に面白かったです。

例えば、現在の日本社会ではある程度「常識」とされています

 

1. ご褒美で釣っては「いけない

2. ほめ育てはした方が「よい

3. ゲームをすると「悪影響

 

というのは、データによりますと

 

1. ご褒美で釣っても「よい

  → 「ご褒美目的で子供は勉強をするようになる」

    ということはなかった。また、

    「アウトプット(テストの結果、成績など)」に対しての

    ご褒美より「インプット(勉強する時間、読書など)」に対して

    のご褒美の方が効果があった。

 

2. ほめ育てには「リスクもある

  → 実力がないのにほめてしまうと「自分は何でもできる」

     と勘違いしてしまい「実力のないナルシスト」を

     育てることになる可能性もある。

     また「能力(頭の良さなど)」をほめると、

         子供のやる気を低下させる可能性もあるため、

    「努力(頑張りなど)」をほめる方が効果的。

3. ゲームをするだけで「暴力的になる

  「学習時間が減る」というわけではない。

     → 子供は「ゲームで起きる暴力シーン」を

    現実社会で行おうと思うほど愚かではない。

  → ゲームをやめさせたところで

    学習時間が増えるわけではない。ゲーム以外の娯楽

    (友だちとのチャットや動画を見るなど)に代わるだけ。

 

といったことが「研究データ」と共に紹介されています。

専門的な内容なのですが、専門家以外でも読めるよう

かみ砕いた形で紹介されていたのも良かったですね。

このこと以外にも、

 

1. 収入格差の問題

2. 友だちの影響力

3. 非認知能力(「自制心」や「やり抜く力」など)の必要性

4. 少人数制学級の有効性

 

など、日本の教育が直面している問題についても

語られています。現在、日本では「教育格差」がいろいろと

話題になっていますが、そういう問題の解決策を打ち出す際に

これらのデータが活用されるといいと思いました。

 

≪注意点≫

しかし、忘れてはならないのは、

 

この本で紹介されているのは「統計」であって

「普遍的な真実」ではない

 

ということ。つまり、

1. ご褒美で釣っては「いけない

2. ほめ育てはした方が「よい

3. ゲームをすると「悪影響

という従来の考え方が当てはまるケースもたくさんある

ということです。教育はやはり

(1) 子供の性格
(2) 家庭や学校の教育環境
(3) 親や教員の子供への接し方
(4) 友だち関係
(5) クラブ活動

 

など、様々な要因で「何がその子にとって良い教育なのか?」

ということが決まります。そのため、この本の主張は

あくまで「参考程度」にとどめておくのが良いでしょう。

また、データも日本での収集が困難なため、

アメリカのものに偏りがち。そのため

 

「あ~、なるほどね。『ほめて伸ばす』なんて

よく言われるけど、根拠のない『ほめ殺し』は、

かえって悪影響を及ぼす可能性があるから、

そこは注意していこう」

 

「あ~、なるほどね。うちの子供は毎日

ゲームを1時間近くやっているけど、

そこまでガミガミ怒る必要もないのかもしれないかな」

 

といった感じで捉えるのが良いと思います。

 

そして、個人的にはこちらの本で

 

「それじゃあ、明日から我々はどういったことをするべきだと

思いますか?」といった質問に答えられるような、

具体的な方策

 

が書かれていたらベターだった気がしますね。なぜなら、

 

そこが何よりも読者が気になるところ

 

でしょうから。例えば

 

1. ゲームは1日1時間程度なら問題ない

2. 「勉強しなさい」は、あまり効果なし

3. 男の子なら「父親」、女の子なら「母親」が関わると良い

4. 全て親でなくても、困った時は身近な人に頼っても良い

 

といったことが書いてあるのですが、

 

1. じゃあ、子供がゲームを毎日2時間以上している場合は、

  どのような方法で1時間に減らしたらいいですか?

2. シングルマザー・シングルファザーの場合は、どうしたらいいですか?

3. 両親が忙しく、身近に頼れる人もいない場合はどうしたらいいですか?

 

といったところも読者のみなさんは、聞きたいところだと思います。

また、私なら

 

1. p.93で非認知能力である「自制心」を鍛えるのは「継続・反復」と書かれていますが、

 例として挙げられている「背筋を伸ばす」 「レコーディングダイエット」以外に、

   どのような方法がありますか?(特に「レコーディングダイエット」が必要な子どもはあまりい

   ない気がするので、明日からでも子どもに対してできる例をお願いします)

 

2. p.94で非認知能力である「やり抜く力」を鍛えるには「しなやかな心(自分の能力は努力に

    よって伸ばすことができると信じる心)を持つことが大切」「ステレオタイプを持たない」と

    いったことが書かれていますが具体的に何をすればこういった心が育つのでしょう?

 

というところが一番聞きたい部分ですね。

こういった内容が具体的に書いてあれば、

更に良い本になっていたと思うのですが・・・

それは「教育経済学者」のお仕事ではない(?)

から仕方がないのかもしれません。こういったデータを

基に「どういう教育環境を構築していくのか?」というのは、

私みたいな「教育者」のお仕事なのでしょう。そのため、

教育をお仕事にされている方以外には、

少し物足りない内容かもしれませんね。

(それか、中室先生は講演をいろいろとされているみたいなので(例えばこちら

そういった講演の場で質問をしてみるのがいいのかもしれませんね)

 

しかし、全体的にはオススメです!

私も新しい価値観を持つことができましたので、

大いに役立ちました。読んでみる価値は十分にあると思います!

 

≪余談≫

「個々の家庭環境や学校環境などから、

そのお子さんにとって、一番の教育を一緒に考える“教育アドバイザー”」みたいなお仕事も

今後教員には必要になってくると思います。「国語」「数学」「英語」などの科目なら優秀な教員

によるオンラインでの講義で十分な時代が来るかもしれませんのでなおさら

「ロボットやオンラインでは代替できない人だからできる教育者としての仕事」というのを

今一度考える時に来ているのかもしれません。

 

今後、私にも「うちでは、こういう状況なのですが、どうしたら良いでしょうか?」

という相談が来るかもしれません。その時は、いろいろなデータや経験を基に

的確なアドバイスができる人になっていたいですね。

「教育アドバイザー」か~・・・いいですね。私も名乗っていこうかな(笑)