【書評】すべての悩みは量が解決する!英語多読(繁村一義、酒井邦秀)

≪内容(Amazon より)≫

日本人の英語の悩みをすべて解消する「多読」の最新事情と実践法が分かる本。暗記も努力も我慢も必要ナシ。 
誰でもできる英語をたくさん吸収するコツを教えます。絵本からやさしく始めて無理なく英語を大量に吸収することで、英語力がどんどん伸びます。 

(中略)

【大量吸収のコツ=多読三原則】 
1 辞書は捨てる…… 辞書が必要のない本から始めます。 
2 分からないところは飛ばす…… 読書の妨げになるので飛ばします。 
3 自分に合わないと思ったら投げる…… 次に移って、合う本を探します。 

本物の英語力が伸びるのでTOEICなどのスコアも自然に上がります。
また、最新の「多読」は読むだけではありません。
実践者の間での流行は「字幕なし多観」(映画やドラマを字幕なしでどんどん観ること)。 

普通の英語学習では不可能な質・量の英語の吸収を可能にする「多読」で、
今度こそ、本当の英語力を身に付けませんか?

【著者紹介(こちらの書籍より)】

繁村一義
NPO多言語多読理事、二十歳で英検3級に落ちたレベルから、多聴多読でTOEIC900点を超え、外国人ばかりのチームをリードできるようになった経験を生かし、エンジニアとして活躍するかたわら、各地で講演や指導を通して多読の普及に努める。NPO SSS英語多読研究会監事、日本英語多読会監事。

酒井邦英
NPO多言語多読理事長、元電気通信大学准教授。2002年、多読三原則に基づき絵本から始める多読を提唱し、以来、数千人以上に多読指導を行う。著書に「快読100万語!ペーパーバックへの道」(ちくま学芸文庫)、「教室で読む英語100万語」(共著、大修館書店)などがある。

NPO多言語多読
酒井氏の提唱する多読の普及、多読支援者養成などの活動を行う非営利団体、英語だけでなく、日本語や韓国語、ヨーロッパの言語にも活動の場を広げている。
https://tadoku.org

≪Amazonカスタマーレビューはこちら

≪藤井の評価≫
★★★★☆☆☆☆☆☆(4/10)

【評価の理由】

≪良い点≫
1. 多読という英語学習の方法の1つを提唱している。
2. 多読三原則という「楽しむ」ことを前提とした
ひとりでも続けられる学習方法は魅力的。
3. 多読に使えるオススメの教材・サイトなどが
紹介されている。

≪疑問点≫
「これ本当?」「これは多読ではない気が・・・」と思わせる記述がいくつも・・・

<例>
「学校英語の質の悪さは言葉を失うほど」(p.28~)

 (1) climb は「登る」である=間違い
          climb には方向がない(climb downとも言う)
    wear は「着ている」である=間違い
    wear は「被っている、履いている」も入る

だけど、辞書を見ますと「登る」としっかり出てきますし、例文は climb a tree(木を登る) climb a mountain(山登りをする)と出てきます。また wearも「着ている」という意味もちゃんとあります。 「climbはいつも『登る』と訳されるわけではない」「wearはいつも『着ている』と訳されるわけではない」なら分かりますが「climbは『登る』ではない」「wearは『着ている』ではない」という言い方の方が間違いではないでしょうか?実際にそう言う意味もあるのですから(笑)・・・と言うか、英単語の多くはたくさんの意味があるのですから、これを言い出したらキリがない。「英単語にはたくさんの意味があるけど、今の段階ではこの意味だけで十分」という判断からの意味の限定なのではないでしょうか?

(2) I, you は「私、あなた」=間違い (p.28~)      

 「私、僕、〜君、あなた、お前」の意味もある。

そりゃ〜、そうでしょう(笑)日本人の英語学習者で I だから常に「私」、youだから常に「あなた」と訳している訳ではないと思います。ちゃんと「僕」であったり、「君」であったりを頭の中では使い分けているはずです。「英語で『私』は分かるのですが、『僕』が分かりません。なんていうのですか?」という質問をほとんど聞いたことがないように、この事に関しては多くの方が理解できていると思います。

(3) 英語の発音マスターは、

   日本語にない音を練習すればいい=間違い

       日本語と英語には同じ音は一つもない。(p.32)

本当ですか?確かに日本語と英語の音は、違うものが多いですが、「同じ音は一つもない」というのは言い過ぎのように思いますが・・・(私は音声学の専門ではないのではっきりしたことは不明ですが)。仮に違っていたとしても「同じように聞こえ、英語としては通じるが実は微妙に違う」という場合「同じように聞こえて通じるのであれば、学校英語としては十分なのでは?学校でそれ以上のことを説明する理由はどこにあるの?」と思ってしまいます。

(4)多読をすれば「海外ドラマを字幕なしで堪能できる」「会話や試験もあっさりできるようになる」(p.34)

本当ですか?これは言い換えれば

1. 英語の音を聞かないでも

  「リスニング」ができるようになる

2. 発音の練習、文を組み立てる練習などをしなくても

   「スピーキング」ができるようになる

3. 文法の練習や単語を覚えない、過去問などを

    解かないでも、「受験英語」ができるようになる

と言っていることになります。リスニングの場合、いくら単語や文が分かっていても「何を言っているのか分からなければ、理解できない」と思うのですが・・・また、辞書も引かないのであれば発音はどうやってチェックするのでしょう?著者は「日本語と英語には同じ発音は一つもありません(p.32)」と説明されていますが、それなら多読だけでどうやって発音をマスターすれば良いのでしょう?そして、「受験英語」について。例えば「分からないところは飛ばす」ということを繰り返していて、細かい文法を聞くような日本の受験英語に対応できるのでしょうか?それこそ、「受験英語」と呼ばれるぐらい受験で登場する英語は「実用的ではない英語」が多く使われるのに、そのことを練習しないでも、志望校の英語はできるようになるのか・・・実際試してもらいたいですね。それか、著者のいう試験とはTOEICや英検と

いった試験のみを言っているのですかね?

(5) 基本的な文法もいらない?(p.53)

「多読するには基本的な文法は分かっていなければいけない」という人がいますが、そうでしょうか?

基本的な文法も必要ないのですか?まあ、確かに文脈から読み取れる部分は多いと思いますが、中学までの文法は知っておきたいですよね。例えば、現在完了には、have/hasなども登場しますから、これは知っておかないとわけがわからなくなります。前に替え歌で有名な嘉門達夫氏の歌で 「Spring has come. を『バネもってこい』と訳した」という歌詞がありましたが、そういうことが起こりうるわけですから(笑)あ、けど、著者によりますと、こういうのは飛ばせ・・・ってことですね。大丈夫かな・・・

(6) 多読は私たちが日本語を身につけたやり方そっくりです(p.60)

え?基本的に母国語の習得は耳(音)から始まるんじゃないですか?赤ちゃんの時から、家族やテレビなどから色々な言葉を聞きそこから音を覚える。会話ができるようになり、どんどん考えることができるようになり、その後、字が読めるようになるのだと思います。「会話ができるようになる前に字が読めるようになった」というお子さんはあまり聞いたことがありません。確かに、ある程度の歳になれば「読書」も重要になってくると思いますが「読書」をほとんどしない方でも、日本語を使ってコミュニケーションを取れる方はたくさんいると思うのですが・・・

(7) 多読をすすめる3つの柱「多読三原則」「大量の読みやすい本」「仲間」(p.85)

え?仲間?もう多読じゃないですね。(苦笑)「仲間を増やすのは重要。SNSや自分たちのNPOのサイトを利用してください」といった趣旨の発言をされていますが、もう多読は関係ない気がします。しかも、3つの「柱」のうちの1つを担っているのですから、相当割合も大きいと思います。コミュニケーションを取るのが苦手で、パソコンもできないという人は2本の柱だけで行うということですかね・・・

(8) 字幕を消して「多観」の世界へ(p.140)

「多読」があるのだから、英語の映像をたくさん観る「多観」や英語の音源をたくさん聴く「多聴」だって、あっていいよねってことは、誰しも思いますよね。

あちゃ〜、完全に「多読」ではなくなりましたね(苦笑)ご本人が否定されていますから。これは多読の本だと思ったのですが・・・

(9) 多書(p.151) 多話(p.154)

ここまでくると「あれ?これは何の本だったっけ?」と思えてきます。この本が「多読を基本とする、総合的な英語学習法の紹介をする本」なら理解できるのですが、タイトルの「すべて悩みは量が解決する!英語多読」ではちょっとコンセプトとずれている気がしますね・・・

(10) 「聴く」と「話す」両方に効果大の「シャドーイング」(p.157)

あらら。今度はシャドーイングか。もう多読はどこへ行ったのやら・・・

(11) Hulu, Netflix, BBC Earthなど動画サイトの紹介

  (p.190-210)

もう完全に多読ではなくなりましたね・・・やはり「多読」とはせずに「多読を基礎とする、英語学習の進め方」にしておいた方が良かった気がしますね。