世界に通用する一流の育て方 地方公立校から

<塾なしで>ハーバードに現役合格(著者:廣鶴真理)

個人的評価:★★★★★★☆☆☆☆ (6/10)

 
 

≪著者略歴(ホームページより)≫
フリーランスとして英語とフランス語の翻訳と

英語講師業務に携わり、株式会社 Dirigoを、
翌年一般社団法人 Summer in JAPANを起業。

 

1)幼児から大学受験生まで一環して教える

  無学年制の画期的なスクール
2)国際交流とグローバル人材の育成プログラム
3)「親力」を養うワンコインセミナー、

 

の3つを柱に教育プロデューサーとして活躍する。
独自のメソッド「ひろつるメソッド」で、
ハーバード大学や東大をはじめとする数々の有名大学や
医学部へ生徒を送り込む。

(更に詳しくはこちら:ひろつる まり

 

≪ざっくりした本の内容≫
地元は大分。一人娘の廣鶴すみれ氏は
県立大分上野丘高校

(「高校偏差値.net」によると大分県トップ)
出身。ここからハーバード大学に入学させたということで、
真理氏の教育方法、教育論がこの本では書かれている。
真理氏は、かなりの勉強家
(妊娠中に学術書を含めた育児本を200冊ほど読む)。
塾は行かず小中高すべて公立校だったので、

学費は50万円程度だったとか。
真理氏の教育スタンスは、「親と子どもは別人格(一個人)。
未来人だから常識も通じない」と常に意識することが重要。
親が得意なものを教え、苦手なものは一緒に学ぶ。
親は楽しみながら教える(親が読まない本は読まない)。
学校で学ぶようなアカデミックな勉強だけでなく、
日本文化の指導など「文化資産」も重要だと主張
(修学旅行をパスして歌舞伎を見に行くなど)。
今後、日本の受験もこのような

「文化資産」を重んじるような
システムに移行していくだろうとも述べている。

習い事は遊びではなく、プロを目指すぐらい

真剣にやるべきでだと主張。
実際、すみれ氏のバイオリンの能力はプロ並み。
勉強の習慣としては、ゲーム感覚でできる

“To Do”リスト(やることリスト)を
小学校の時から活用する一方、無駄な時間は極力削り、
別のことに時間を充てることを重視。
学校の勉強は平日、土日は音楽やボランティアなど

課外活動を行い「創造性や人間力を高める」教育を行っていた。
また、社会性を養わせるために
週末は外国人も参加するホームパーティーを行っていた。

教育論としては、「模試は受けない」「塾は通わない」
「宿題は答えを丸写ししながら学ぶ」といった変わったやり方。
教育は家庭から変えるものだという意見で、
教育をしっかりするには、家庭をしっかりマネージメントし
自主性・問題解決力・考える力を指導するのが
重要だと主張している。また、英語教育という観点では、
「使える英語」を軸に「文法ではなく読んで書ける能力」
「定型文を覚える」ことを優先し、

親が子供に質問をしたり、子供の質問に答えたりすることで
「親が子供の語彙力を増やす努力をしないといけない」
と言っている。

 

その他、ハーバード大学への入り方やハーバード学生の特徴。
あとは、親子の対談などが書かれている。

 

≪気になる点1:本当に平均的な家庭?≫
p.13に「わが家は地方都市大分の平均的な家庭」と言っているが

 

・真理氏も翻訳家として働く共働きの家庭。
・子供は、すみれ氏一人(経済的な面から子供が2人以上の家庭より余裕がある)。
・すみれ氏は、小さい時はバイオリンとバレエを習う。
・6歳からはバイオリン1本に絞ったとはいえ、

  後に日本でも有名なバイオリンの先生から教えを受ける。
・すみれ氏のバイオリンオン腕は超一流。
  (ちなみに、日本一のバイオリン情報局を謳っている
  「バイオリン上達.com」さんによると、プロのバイオリンを
  育てるには、4408万円ほどあれば可能性があるとか)
・家にはバイオリンの練習ができる防音室がある。
・週末は外国人も参加するホームパーティーを行う。

 

これは、どう見ても「平均的な家庭」ではない気が・・・

 

≪気になる点2:すみれ氏が、真理氏を「ママ」と呼ぶ≫
著書の最後に真理氏とすみれ氏の対談が載っているのだが
すみれ氏が真理氏を「ママ」と呼んでいたのが
個人的には少し気になった。大学を卒業した22歳ぐらいの
女性が自分の母親の事を「ママ」と呼ぶ・・・
私には「子供っぽい」といった印象があるのだが
私だけかもしれない。

 

【感想】
家庭での教育の仕方は「なるほど」と

考えさせられるものが多い。学校の教育も重要だが、

家庭内の勉強も重要だという主張は
まさにその通りだと思います(廣鶴氏の場合、
家庭内の教育の方が重要だと主張しているように捉えられます)。
妊娠中に読んだ200冊の本から、自分なりの子育て論を構築し、
それを実際に行ない、試行錯誤を繰り返して、
すみれ氏のハーバード大学合格や、

この本に結びついた・・・といったところでしょう。

「Dirigo」という塾を経営しているぐらいなので、

熱心な教育者なのでしょう。この本では

「ひろつる式英語学習メソッド」を30ページにもわたって
解説していますので、自分の教育論にも
かなり自信をもっていらっしゃる様子がうかがえます
(Amazonレビューでは、
このことを「自分の塾の宣伝」と捉えている方もいましたね)。

しかし、このことからもお分かりの通り
廣鶴家はどう考えたって

平均的な家庭ではないと思います(笑)
経済的にもそうですが、お母さんの気持ちが全然違う。
まず、平均的なお母さんは、子供が産まれる前に
育児書を200冊も読まないでしょう(笑)
そして、子供に歌舞伎を見せに行かせたり、
週末にパーティーを開いたり、自分で会社を立ち上げたり、
ハーバード大学の学生さんを日本に呼び寄せ
サマーキャンプを行ったりと、

やることは、かなりぶっとんでいると思います。

ご自分に自信もあるのでしょう。
この本での口調も「上から目線」といった印象がありましたので
敵も多かった気がします。特に日本社会の場合、

「隣人や学校の保護者が陰でいろいろと言う」ということが

頻繁にありますので真理氏は

けっこう文句も言われていたと思います。
しかし、真理氏はこういった悪口を
全く気にしていなかったのでしょうね。

だから、真理氏にとってこれらは
「平均的なこと」なのだと思います。できる人はよく
「そんなの簡単じゃん」「何でできないの?」と言いますが、
やはりそこら辺の感覚が凡人とは違う気がしますね。

 

また「使える英語」を主張する割には、
ホームページを見ると英検や大学受験合格に

こだわっている印象もあります。英検1級・難関校合格は

確かにすごいと思いますが、

「英検や受験に合格する英語」は

必ずしも「=使える英語」ではありません。
そんなことは日本社会を見れば一目瞭然でしょう(笑)
実際「英検を持っている」「一流大学を出ている」といった学生でも
英語が話せない方は山のようにいます。

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余談ですが、残念なことに大学の英語教員も同じです。
英検1級を持っていたり

一流大学を出ていたりする先生は多いのですが、
特にアウトプット(スピーキング・ライティング)が苦手な
先生はたくさんいます。自分でも苦手意識があるのでしょう。
私の知っている、ある英語の先生は、
一流大学を出ている教授。それなのにも関わらず、
他の英語の先生方の前では全く英語を話しません。
それどころか、ネイティブが参加する会議ですら
英語を全く話さないという徹底ぶりです(笑)
更に言えば、多くの日本の大学英語教育者が

所属している(会員数2360人)大学英語教育学会(JACET)

というものがあるのですが、こちらが主催する全国大会では、

多くの発表が日本語で行われています。
参考程度に2016年に行われました全国大会の
プログラムを載せておきましょう。

確かにタイトルは英語のものが比較的多いですが
大学の英語教育者なら全部の発表を
英語でやってもいいぐらいです。なんせ理系の分野では
全部英語で行う学会もあるみたいですから
(英語を話すのが苦手だから話したくないという先生は、
学生に「英語を話すことを

恥ずかしがっちゃいけません」なんて
口が裂けてもいえないでしょうね。全く説得力がない・・・)。

 

また、私がかつて参加した全国大会では
英語のタイトルでも日本語で発表をされている方も
ちらほらいらっしゃった気がします。

大学の先生によっては「使える英語」が使えない先生が
英語を教えている・・・う~ん・・・
そう考えると、大学に入ったとしても
「使える英語は学べない可能性がある」ということを
覚えておかないといけないのかもしれませんね。
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このことからも分かる通り「受験英語ができる」

「英検英語ができる」は、

必ずしも「=使える英語」ではありません。
そのため「使える英語」をアピールするのに「一流大学合格」
「英検1級合格」はあまり説得力がない気がします。
もし「使える英語」を主張されるのであれば
生徒さんのTOEFL-iBT や IELTS の点数を
出された方が良い気がしますね。

これらも試験ですので当然英語能力以外の

「テクニック」とうものも関わってきますが
英検や大学受験よりもアウトプットに

重きを置いている試験ですから

より「使える英語」の評価につながると思います。

また、個人的には

「大学(ハーバード)に入れるのがゴール」といった
印象もありました。日本でよくある

「大学入学がゴール」といった印象です。
「アメリカの大学はこういう人が求められている」
「日本の大学も文化資産に重きを置きだしている」
という話はあったのですが
「社会に出た時、こういった大人になるための教育をしている」
といったことは、あまり書かれていなかった気がします。
もっとも、この本はそういう本
(ハーバード大学への入れ方)なのですから、
それはそれでよいですが(笑)

 

私は「大学入学はあくまで人生の通過点」といった主張なので
そこら辺はちょっと意見が違いますかね。
よくメディアに登場する「花まる学習会」の
高濱正伸氏は「メシが食える人、魅力的な大人」という
理念を基に「幸せに生きるための教育」を
行っているみたいですが、

どちらかというと私は高濱氏と同じ意見ですかね。
もっとも、ハーバード大学を出て入れれば、
おそらくメシを食べていけるでしょうし、
それなりに魅力にも映ると思います(笑)

そんなわけで、この本は

 

・家庭の裕福さに限らず、家庭での教育で参考になるものも多い。
・しかし、実践するのは母親の覚悟も必要になってくる
 (子供をどこかに連れていったり、家でパーティーをするなど)。

 

といった本だと思います。